半袖でこんにちは(この撮影は9月下旬の真夏日に行われました)。斎藤充博です。
皆さん、趣味で集めている物はありますでしょうか。趣味……。それは生きる喜び、世界との対峙、魂の輪郭……。とにかく人には欠かせません。
ところが、物を集めるのは中々大変です。どうしても場所をとる。家族がいると批判の対象にされかねません。
インターネットには「旦那の集めているコレクションを捨ててやった」みたいな話が定期的に上がっていませんか。恐ろしい……。
そこで今回は「実際にコレクションをしている人はどうやって家族との折り合いをつけているのか」を調べてみます。
きっとうまい場所の節約の方法と、物を無駄にしない資源の節約の精神が見つけられるはず……。
みんなどうやってコレクションを守っているの?
まずツイッターで家族を持っている人にアンケートを採ってみました。
みんなすごい。予想外のテクニックが集まっています。独自に分類してみました。
置き場所のテクニック
テリトリー型

自分の部屋に全部置いてあります。自分の領域から出さないことが秘訣です。
なるほど。テリトリーの設定で苦労はあるでしょうが、その後は家族に一切隠す必要がないところが素晴らしい。ストレスが少ないやり方でしょう。
隠匿型

さまざまな機種のゲームを、トータル1,500本くらい集めました。箱は倉庫、中身は(CDかDVD)ケースに保管しています。ほんの一部をダミーとして見せておいて、残りをいろいろな場所に隠しています。引っ越しの時にばれそうになったんですが、職場に一時的に避難などさせて乗り切りました。
一部をダミーとして見せる隠匿型は、悪意を持った処分にも対抗できることでしょう。
あなたの家のパートナーのほんのささやかなコレクション、それは隠匿のためのダミーかもしれませんよ……。

アルコール飲料を数百本集めました。夫と一緒に飲んだりします。自宅と貸倉庫に保管しているのですが、貸倉庫の存在は秘密です。
こちらは、より過激な隠匿型。倉庫を秘密で借りるって、かなりの苦労がありそう……。送られてくる請求書や引き落とし明細などどうしているんでしょうか。
分散型

マンガとゲームとサバゲーの道具。職場や車のトランクの中に置いてあります。コレクションの存在は正直に言っていますね。言い訳した事がないです。
お次は分散型。一カ所に置いてあると邪魔だけれども、あちらこちらに置いてあれば気になりません。分散場所の候補としては「職場」と「実家」が多く見受けられました。
理解型

CD1,000枚くらいをコレクションしています。現在プレイヤーが無いので、CDは引越時にダンボールに詰めたまま放置しています。コレクター同士で結婚するのが一番。
最後は理解型。アンケート結果を見ていると、「お互いにそれぞれにコレクションがあるから我慢するし、我慢してもらう」という部分理解型と「夫婦で完全に趣味が同じ」という完全理解型があるように思えます。
中には「夫婦で一緒にボードゲームのお店を作っちゃった」なんて回答もありました。すごい……。カップルとしてこれが理想の形かもしれませんね。
説得のテクニック
お宝型

ポケットティッシュラベル600枚をコレクションしています。資料的価値があると言い張っています。
コレクションの価値を伝えてゆくお宝型は良い方法ですよね。それにしてもポケットティッシュラベル600枚には本当に資料的な価値があると思います。

フィギュアを集めています。少量生産だから、後々プレミアがついて定価より高くなる。だからこれは、フィギュアという名の貯金なんです。
なんか納得してしまう! でも、どうせ換金する気なんてありませんよね?
なかったらもっとひどいことになるぞ型

チョコエッグ80個くらい。癒されるから必要といっています。勝手に片付けたら機嫌悪くなるぞ、という裏の意味を込めて。
なかったらもっとひどいことになるぞ型。一見脅迫のようにも見えますが、実際にそうなってしまうんだかから仕方がない。誠実な態度と言えます。
諦めてくれ型

マンガ1,000冊程度。絶版の物もある。これ以上は減らせない。諦めて欲しいと言っています。
最後の手段、諦めてくれ型。要望をストレートに伝えるのはあんがい有効なんじゃないでしょうか。僕も正面からそう言われたら「わかった」といってしまうと思います。
テクニックは以上。
実際は、このテクニックを複数組み合わせてコレクションを続けているようです。独自の工夫が見えてきて、なかなか興味深いですね。
*アンケートの回答は編集させていただきました。回答して下さった方、ありがとうございました!
団地でシンバルのコレクションをしている人を見に行こう
今日来ているのは僕の友人の北山さんの家。北山さんは「シンバル」をたくさんコレクションしているらしいのです。
北山さんの家は、普通の団地。間取りは2K。部屋の広さは6畳と4.5畳とのことで、広い空間があるとは言えません。
実際に物を持っている人の家はどんな感じなのか。コレクション見学と共に話を聞いてみたいと思います。

シンバルをコレクションしている北山さん

こんにちは。こんにちは。よくいらっしゃいました。僕んちクーラーがなくてですねぇ……。なんで今日はこんなに暑いんだか……。扇風機つけますんで。

いえいえお構いなく……。

蚊がいますよね? 蚊取り線香焚いているんですけれども、窓開けてちゃ意味ないか。でも締め切るわけにはいかないし。
こういうときってどうしたらいいんでしょうかね? どうします? ねえ。斎藤さん?

なんで僕に聞くんですか?
最初に説明しておくと、北山さんはものすごく変わった人なのです。職業は「トライアングル職人」。この団地の部屋でこだわり抜いたトライアングルを一人で製作しています。

北山さんが作っているトライアングルの一部

今日はお話ししてたとおり、シンバルのコレクションを見せていただきたくて。それと、奥さんとコレクションをどんな風に折り合い付けているのかも知りたくて。

うんうん。それでさ、蚊はどうしよう?

蚊は後でいいんで。

わかった。あのねあのね。こっち見て。
押入の中の膨大なコレクション

押入を開けるとコレクションがズラリ

家の中では、このスペースにコレクションを入れてます。

なるほどなるほど。……って、あれ? シンバルじゃなくて、ドラムじゃないですか?

そうなんだよね。ここにあるのはドラム。捨てられなくて……。ちょっと出してみますね。

撮影アシスタントに来てもらった友達のくつしたさんが大興奮

すごい数のドラムヘッドありますね。捨てられないのわかりますよ!

あっ。わかりますか?
いきなり人間が増えたんですが、今回撮影アシスタントをお願いしてた「くつした」さん(芸名)。趣味でバンドをやっている人です。
急に打ち解ける2人。全然入っていけなくて、僕が撮影スタッフになってしまった……。

これ……。なんでこんなに集めているんですか?

えーとね。僕は趣味でドラムをやっていて。いろんなヘッドの音を聞こうと思ったんですよ。

ヘッド?

ヘッドっていうのは、今置いてあるこれですね。ドラムの叩く部分。

これが「ドラムヘッド」

そうです。ヘッドによってドラムの音が変わるんですね。だからいろいろ試すために、集めるじゃないですか。

ううむ……。僕は楽器のことがわからないので、同じ物がたくさんあるように見えますが……。

押し入れの奥の方に、ドラムの本体もありますよね? あれは、いくつあるんですか?

ここには、ざっくり20個はあるかなあ。
あと、ここから1時間くらいのところに倉庫を借りていていて、そこにも10個くらいあります。
それから、よく行く知り合いのギタリストの家に10個くらいあるんですよね。
だから、全部で40個くらいはある。

多いなぁ! というか、倉庫はともかく、人んちも使っているんですか。すごい。

あっ。そうだ。シンバルも見る?

そうだ! 僕たちシンバルを見に来たんだった……! 忘れていた……!

黒いのがシンバルのケース

ああ。これは相当すごいですね。私もシンバルを集めているから雰囲気でわかります。

なんでみんな集めているんだ……。

一つのシンバルケースの中に7~8枚くらい入れています。

重ねているわけですね。楽器にしては収納はしやすいのかな。

……って、あれ? 全然7~8枚じゃないですよね? 14~15枚は入っているな……。

あれれ……? おかしいな……。こんなに入っていたっけ?

ざっと出してもらったところ

スゴー! こんなに押入の中に収まっていたんか。

ここには50枚くらいありますかね。それから、倉庫に20枚くらいあります。あ、さっき言った知り合いのギタリストの家にも10枚あります。

合計80枚もシンバルがあるのか……。 ええと、なんでこんなに集めちゃうんでしょうか?

それが不思議ですよね。なんででしょうか?

(笑) 私は気持ちがわかるんですけれども、いつか使う日が来るんじゃないか、って思うんですよね。微妙に音も違うし。

そう! それだー!

そういうのって、結局使わないパターンな気がするけど……。

「どうぞどうぞ叩き比べてみて下さい」と言われたが、正直あんまりわからず……ごめん!
価値のあるものも

これ見てくださいよ。1800年代のシンバルです。今探せる範囲で一番古いですね。

高いんですか?

7~8万くらい。高い物のわりには、安いでしょ?

(「高い物のわりには安い」ってなんだ……?)ひょっとしたら、ここにある物を全部合計すると相当な値段なんじゃないですか?

うん。ここにあるシンバル、1枚数万円はしますよ。

じゃあ、余裕で200万円は超えますね。

200万円かあ……。そんなにあるのかあ……。

自分のでしょ?

ちなみに、この中で一番好きなシンバルってどれですか?

(しばしの沈黙)一番、好きな、シンバル……? うーん……。「好き」とはいったい何だろう……。

あっ。そんなに深く考え込まないでください。例えば……。無人島に1枚だけ持って行くなら、どれにしますか?

無人島? ここには実は人類の遺産ともいうべき、貴重な物がいくつかあるんですよ。
僕が今たまたま遊びで持っているわけですが、本来なら僕が持っていいものではない。いつか手放して、ちゃんとした人や施設が所有する物だと思います。そういう物を無人島に持って行っちゃいけないですよね。
以上を踏まえると、無人島に持っていくとしたら、一番どうでもいい、ゴミみたいなシンバルを持っていきます。

そういうことじゃなくて……。なんか質問間違えたな。

(笑)北山さんの言っていること、正しいですね。
これだけのコレクションを家族に認めてもらうコツとは

では、これだけのコレクションを奥さんに認めてもらうコツって、一体なんなんでしょうか?

コツ?なんだろうねえ。自分のエリアが決まってるんですよ。
うちには押入が2つあって、使っているのはそのうちの1つ。しかもその中でも、上と下の方だけ。

押入れ、これだけしか使ってないんですか? 正直、一部時空が歪んでいるとしか思えない。

シンバルも、ドラムヘッドも重ねられるので。

たしかにそれはそうですが。

きちんと重ねれば自分のエリアからはみ出しません。

これ、本当にはみ出してないんですか?

あははは。はみだしてますね。でも、ちょっとですよ。ちょっと。そういうときは「まあまあ……。そのうち片付けるから」って言ってごまかします。

それでごまかせているのすごいな……。奥さんも音楽関係なんでしょうか?

別に音楽関係ではないですね。

心広いなあ……。

あんまり口うるさくない人と結婚するのが、コツかもしれないですねえ。
というわけで、家族とコレクションを続ける秘訣は、
【 心が広い人と一緒になればいい! 】
らしいんですが……。う~~~ん。これでいいのか?
夫婦にとっての『コレクション』って何だろう?
奥さんは北山さんのコレクションをどう思っているのか、後日電話をして話を聞いてみました。

引っ越して最初の頃はいろいろ思いましたね。リラックスしたいところに金属的な物があるの、嫌だなあって。
でも、今ではだいぶ慣れて違和感を忘れてしまいました。
私は彼のコレクションに興味は全然無いんですが、物を介して世界と繋がるのが彼の人間性だと思っているので。処分して欲しい、というのはないです。むしろ、梱包も収納もうまいんで、感心してます。
あと、それぞれの持ち物をエリアで仕切っているのも大きいかもしれません。そうすると、だんだん自分以外のエリアが見えなくなってくるので。
でもどうなんだろうなあ。これからまた物が増えたら困るかも。
話を聞いて、衝撃でした。全然悪く思っていないようなんです。
むしろ人も物もひっくるめて、全て理解してくれています。これって、間違いなく夫婦愛なのではないでしょうか?
なんだかんだ言いながらコレクションができている皆さん。大量のコレクションの存在は、愛の形の一つなのかもしれませんよ。
……ちなみに、北山さんに「奥さんのどんなところが好きですか?」と聞いたら「珍妙さ」と答えてくれました。「北山さんがそれ言うか!」と思ったけれども、変わった北山さんを認めてくれる人も、また変わっているのかも……。
取材協力
北山靖議 (北山トライアングル)