
こんにちは。縄文工作家の松本ジュンイチローです。

突然ですが、私、今日は少々怒っています。傘を盗まれたからです。
梅雨のこの時期なのに、傘を盗まれたからです。
なので今回は「傘を盗まれない縄文的節約術」をご紹介します。
傘を盗まれました
先日、雨の日に銀行へ行って15分ほど少々手続きなどをしまして、さあ帰ろうと傘立てを見たら、立てておいたはずの私の傘がないんです。
外は雨。持ってきたと勘違いして実は家に忘れてきた、ということはありえません。盗まれやすいビニール傘ではなくてそれなりの値段(3,000円くらい)した布の傘ですし、持ち手に特徴的な傷もありましたから、間違えて持っていってしまうことも考えにくいでしょう。
思わず、盗んだやつを見つけたら鹿のように打製石器で解体してやる! と呪いたくなりましたが、ぐっとこらえます。怒りや恨みは縄文的ではないですからね。縄文時代は人と人との争いが少なかったといわれていることですし。
縄文工作家としては縄文的に解決するべきだと思うんですよ。安かろうが高かろうが、どんな傘であろうと盗まれてしまえばおしまいです。だからこそ、縄文的な、盗まれない傘を作ればいいんです。結果的に、傘代の節約にもなるでしょう。
まず、縄文人たちが雨の日にどう過ごしていたかを知ろう
縄文時代の雨具というのはまだ発見されていませんが、雨具がなかったとしても不思議はありません。医療の未発達な当時、雨に濡れて体が冷え、風邪を引いてしまったら命にかかわるわけですから、雨の日にわざわざ出かけることはしなかったのでしょう。縄文人たちは雨の日には家にこもって土器や石器などの道具を作ったり、火を囲んで体を休めたりしていたのではないでしょうか。

縄文人たちの家といえば竪穴式住居です。
竪穴式住居は、地面を円形や四角形に掘り下げ、その中に数本の柱を立てて、茅葺きや土葺きの屋根をかぶせた家。

茅葺きは細かい隙間があるため通気性が良く、土を掘り下げた床の温度は1年を通して変化しにくいので、夏は涼しく冬は暖かいとされています。縄文人の知恵の結晶である竪穴式住居風の傘があったら、これからの雨の多い季節も快適にすごせるかもしれません。
竪穴式住居の構造を見に行こう
竪穴式住居風の傘をどうやって作ればいいのか。まずは実物の竪穴式住居を見に行くことにします。
東京都埋蔵文化財センターに併設された「縄文の村」には、復元された竪穴式住居がいくつかあり、中に入ることもできます。
お邪魔しまーす
竪穴式住居には、中央に火を炊くための炉が掘ってあることが多く、この復元住居ではちょうど係員の方が火を炊いていました。薄暗い中で火の灯りを見つめていると、縄文時代のことが自然と頭に浮かんできます。

外の音は全く聞こえないわけではないですが、やわらかく、遠くで聞こえているような感覚です。縄文人たちも雨の日には火を見つめながら雨音を遠くに聞いたことでしょう。少し煙いですが。
茅葺き屋根の茅というのは葦やススキなどの植物を乾燥させたものだそうです。木で組んだ骨組みの上に、束にした葦などを下の方から順に何重にも重ねてあります。

思ったより壁というか屋根は分厚いです。天井には煙を排出するための窓が空いています。そこから少し外の光が入ってきます。

竪穴式住居風の傘を作ろう
構造は分かりました。早速、傘の骨組みに竪穴式住居の構造を参考にして、茅葺き屋根をつけることにします。
ただ、屋根の材料である葦やススキを現代に、そしてこの季節にどう手に入れるべきか。縄文人なら山に入ったでしょうが、現代人である私は100円ショップに行きます。今の季節、ちょうどいいものがありました。すだれです。
すだれも100円で買える時代です
すだれの材料は、葦と竹など。

これを使って竪穴式住居の屋根を再現してみることにします。
8本の骨がある傘なので、すだれから8枚のパーツを切り出して、傘の骨に結んでいきます。

茅葺き屋根を作るときと同じように、束にした葦を積み重ねていきたいと思います。炉があるわけではないですが、先端部には竪穴式住居と同じように窓を開けました。竪穴式住居の窓から光を感じたように、外の光を取り入れることで雨を避けながらも雨の様子を感じられるという、自然の中で生きた縄文人にならった作りです。

すだれで開閉できる傘を作った人はおそらく今まで誰もいないでしょうから正しいやり方がわかりませんが、傘職人になった気分で作っていきます。竪穴式住居を1軒建てるのは大変な作業で、ひとりで建てるのは無理だったようです。縄文人たちはみんなで協力して竪穴式住居を建てたのでしょうが、私はひとりで黙々と作業します。

竪穴式住居傘、完成
そんな修行のような日々を経て、縄文的な傘「竪穴式住居傘」がついに完成しました。

開閉する時に握る部分には、縄文人に馴染みの深い縄ですべり止めをつけました。閉じたときに傘をまとめるバンドの代わりにも縄を使用しています。
先端部分は、開けておいた窓を覆う形ですだれをかぶせてあります。竪穴式住居の屋根部分をイメージしてあります。

竪穴式住居に入れるものといえばやはり土偶でしょう。竪穴式住居の中から土偶が出土することがあり、住居の中に祭壇のようなものを作って土偶を祀っていた、といわれています。そこで、盗難防止の願いも込めて、傘の柄を土偶にしました。家に祀った土偶は、家を守ってくれたはず。ならば傘の柄につけた土偶は、傘を守ってくれるはずです。

「傘の柄のビーナス」です。「竪穴式住居傘」を盗難から守ってくれます。モデルは国宝に指定されている土偶、通称「縄文のビーナス」です。カラビナもつけたので万全ですね。
▲ 縄文のビーナス(茅野市尖石縄文考古館「茅野市縄文ガイドブック」より)
先日長野県に行って実物を見てきましたが、女性の姿をデフォルメした、可愛らしい土偶です。ヘルメットを被っているような表現で、表面には不思議な模様が描かれています。
結局、1本100円のすだれを4本使ってしまいましたので、制作費の総額は400円です。ビニール傘よりは高くついてしまいましたが、ビニール傘よりは圧倒的に盗まれにくいでしょうし、快適に過ごすこともできます。長い目で見れば経済的にも精神的にもお得なはずですよ。きっと。
さて、縄文的にはやはり土偶だけでなく土器も欲しいところですよね。
せっかくなので顔面把手付雨靴もつくろう
縄文土器の中には、縁や胴体に顔がつけられたものもあります。そんな土器のひとつ「顔面把手付深鉢」は、当時神聖なこととされていた出産の様子を表現しているともいわれています。
▲ 顔面把手付深鉢(誉田亜紀子「知られざる縄文ライフ」より)
そんな「顔面把手付深鉢」をモチーフに、雨具にしました。「顔面把手付雨靴」です。防水の靴に顔面把手と装飾をつけました。「竪穴式住居傘」とセットで使用するのにこれ以上ふさわしい縄文的雨具はないでしょう。神聖な土器の力で雨を防いでくれるはずです。

縄文的雨具を使ってみよう

完成したこれらの縄文的雨具たちをさっそく使ってみましょう。
まず「竪穴式住居傘」の感想としては、
重いです。
当初はすだれを何層かにして雨を完全に防ぐつもりでしたが、1層ですでに片手で安定させるのが難しい程度の重さになりました。
▲左:竪穴式住居傘 右:普通のビニール傘
1キロ近くなってしまいました。しかも上が重いので重心が高い。2層にしたら傘の軸が耐えきれない可能性もあり、今回はひとまず1層で構成しましたが、素材や重量には改善の余地ありですね。ただ、1層なので、隙間から空が見えますし、通気性も抜群です。まさに縄文の知恵ですね。

見た目よりもしっかり雨を防いでくれました。小雨程度なら問題なさそうです。

足元は「顔面把手付雨靴」で完全防水ですので、水たまりも心配ありません。
盗難も「傘の柄のビーナス」のご加護で心配いらないでしょう。土偶や、縄文土器につけられた独特の模様は、集落や一族のアイデンティティを表していたという説もあります。

お店の店頭にある傘立てに入れようとしましたが、幅が大きいので入れられませんでした。

遠くから見ても目立ちます。強烈に自分のものであると主張する「竪穴式住居傘」。盗もうとする人はいないでしょう。そもそも見た目で傘かどうか判別がつかないかもしれませんが。
小雨なら問題ないとわかったので、もっと強い水圧で試してみましょう。

早速、自宅の浴室で、シャワーを勢いよくぶっかけてみます。
浴室で傘を開くと狭いものですね。

予想通り雨漏りしました。大雨の中で使うのは厳しそうですね。水に濡れると寒いという基本的なことを思い出しました。
大雨の時は縄文人と同じように、無理に外へ出ずに家に篭もるのが正しいようです。
「竪穴式住居傘」と「顔面把手付雨靴」の縄文的なパワーとは
実は、今回一番苦労したのが雨のシーンを撮影することでした。「竪穴式住居傘」と「顔面把手付雨靴」の完成以来、梅雨入りしたにもかかわらず東京では雨がほとんど降らないのです。
東京の天気(筆者の記憶をもとにしています)
そのため、傘を開いているシーンは私用で山へ行った際に、山の中で雨が降ったタイミングで撮影しました(足元の水たまりは、近所にてようやく雨が降ったときを狙って撮影したものです)。
すぐ近くで大雨が降っているのに自分のいるところだけ晴れた時もありました。
そこで気づきました。「竪穴式住居傘」と「顔面把手付雨靴」の縄文的な力は、雨を防ぐのではなく、雨自体を避けるのではないかと。
縄文のパワーをあなどっていました。盗まれないお得な傘を作ろうとしたら、雨自体も避けてしまう素晴らしい傘を作ってしまいました!
水不足を懸念して乱用は避けなければいけませんが、「竪穴式住居傘」と「顔面把手付雨靴」があれば、縄文的に梅雨も快適ですね!










