ゆるがしこい節約メディア「ゆるぢえさん」

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ベトナムは「路上文化」です!


定食屋も、居酒屋も、ネイルケアも、何から何まで路上にお店を出していることが多く、この数年の寿司ブームから、路上で食べる寿司屋なんてものまで存在しています。日本の寿司はもともと屋台で食べられてたっていうから、ある意味で原点回帰なのかもしれませんが…。

ただ、今回のテーマは路上寿司ではありません。
そ、れ、は…。


そのまま、そのまま右端にご注目~っ!


お分かりでしょうか?


路上床屋です…!!

壁に鏡を掛け、イスを置けば、あら不思議…床屋の完成!

現地の日本人からは「青空床屋」とも呼ばれるこのスタイル。以前から安い安いと聞いていたので、一度試しに切ってもらうことにしましょう。


笑顔から人柄の良さがにじみ出る、青空床屋のおじさん!
お名前はフンさん。床屋道35年の大ベテラン、現在60歳。

ネルソン

おじさん、切ってもらっていい?


フンさん

いいけど、あなた髪の毛なくない?


ネルソン

少ないながらあるわ! でも確かに最近カットしたばかりなので短いのは事実…


だが、安心してほしい!


事前に準備しておいた…


カツラをかぶるので、思う存分に切ってくだされ~!!

フンさん


ネルソン


フンさん

いいけど


ネルソン

よかった

実際は「俺にカツラを切らせるとはオメー舐めてんのか!?」と床屋の逆鱗に触れたらどうしようとめちゃくちゃビクビクしながら聞きましたが、思った以上におじさんが優しい、というよりどうでもいいみたいでした。


余談ですが、想像以上に増毛の広告っぽくてなんか悔しいです。


被ったカツラを切ってもらうって、これこそ「不毛」だな…。

晴れの日も雨の日も路上で髪を切りつづけて35年!

ネルソン

切りはじめておいてなんだけど、一回いくらなの?


フンさん

3万ドン(およそ150円)だよ


ネルソン

安っ…!!

3万ドンはこちらで大衆食堂のランチプライスなので、日本で考えると400~500円といったところ。なお、二年前に店舗型の床屋で切って5万ドンだったので、値上がりして6万ドンだとしてもその半値。ヘアカット界隈でも格安です。さらに、35年前のはじめた当初は1500ドン(およそ7.5円)だったとのことですが、今とは為替レートもまるで違うので、今のレートで計算しても意味はなかったりします。物価としては同じくらい。


何度見ても我ながら誰だこいつ感がすごい。

ネルソン

おじさん、なんでこの仕事はじめたの?


フンさん

障害を持ってるからだよ


ネルソン

すみません…


フンさん

いいよ。体力がなくてね、歩くのも辛いんだ。床屋はあまり動かなくてもいい仕事だからね


ネルソン

そうなんだ、ずっとここでやってるの?


フンさん

ここは5年。前はパスター通り(市内の通り名)で30年やってた


ネルソン

パスター通り? 同じくこんな感じの、青空床屋で?


フンさん

そうさ、ここを見つけるまで探し回ったよ~


ネルソン

へー! 床屋ノマドワーカーだな


ヒゲもあえて朝から放置してきたので、顔剃りをお願い。これは100円。


えっ、クリームは指で塗るのか…!

雨が降りつづいたら帰ります!晴耕雨読な床屋ライフ

ネルソン

一日のお客さんは何人くらいなの?


フンさん

7人か8人ってとこかなぁ


ネルソン

あれ、思ったより少ない


フンさん

ひとり30分で13時から17時半までだから、そんなもんだよ


ネルソン

そんなもんか。あ、でもほら、今って雨季だけど、どうしてるの?


ベトナムには雨季と乾季があり、6月のホーチミンは雨季の入り口。最近だと日に一度は暗雲が立ち込めて、バケツを引っくり返したようなスコールが降っています。

フンさん

だいたい通り雨だから、このパラソルの下でやりすごす


ネルソン

長雨だったら?


フンさん

帰る


ネルソン

帰るの!?


フンさん

だって、お客さん来ないからね


ネルソン

そ、そりゃそうか、何しろ青空床屋が雨空になるんだもんな


フンさん

雨の日なんて結果的には遊びに来ているようなもんだよ


ネルソン

うーん、牧歌的な働き方だなぁ


青空床屋の顔剃りは…


耳毛も剃れば!


鼻毛も切っちゃう!


さすがに鼻毛は予想外だけど…ほどよい日だまりの中で、これは気持ちいい。

13時までの午前中は何をしているの?と聞くと、奥さんといっしょにライスヌードルのお店を経営しているとのこと。朝から営業しないことには理由があるんだけど、それについてはまたあとで詳しく書きます。

お客さんは老若男女、韓流スター風カットが若者の流行り


カットも終わって根掘り葉掘り聞きます(左の女性は通訳さん)。

ネルソン

客層ってどんな感じですか?


フンさん

いろいろいるよ! 1歳の赤ちゃんもいれば、お年寄りも切るし


ネルソン

あぁ、そういえばさっきのお客さん、おばあちゃんでしたね!


後ろ姿しか見えなかったけど。

フンさん

この周辺に住む若者も切りに来るね。最近だと、ベトナムじゃ韓流スターが流行ってるから髪型を真似したいってもんで、頭の横に「VIET(ベトナム)」って彫ってくれって頼まれたわ


ネルソン

あー、あのEXILEがやってそうな(バリアートやヘアタトゥーといいます)…日本だと『日本』って彫るようなノリだと思うと、斬新だな。というか、フンさん、そんなことも出来るんだ!

なお、フンさんの青空床屋が行うメニューは3つ。ヘアカット、顔剃り、そして耳掃除。
そう、ベトナムの床屋では頼めば耳掃除までやってくれるのです。


鏡の前のテーブルには耳かきも!
空き缶に入っているものはすべて耳掃除用具、とのこと。
ベトナム人はどうやら、耳掃除に対して並々ならぬ執念があるようだ。

道具の中には耳の穴専用のカミソリ(!)があり、耳の周りではなく、耳の穴に突っ込んでくるりと回して内側の毛をきれいさっぱり剃ります。実は私も過去に別の場所で一度だけやってもらったことがあるのですが、耳の中でジョリジョリと音を立てて一切の毛が剃られていくという感覚は、妙な心地良さを覚えるものでした。

青空床屋はホテルにも近いので、たまに外国人観光客が興味本位でお客さんとして来るとのこと(私もある意味でそうだけど)。ほとんどは髪を切るだけだけど、中国人だけ耳掃除も頼むらしい。文化があるのかな。

ネルソン

でも…耳の穴に刃物を入れるって危なくないですか?


フンさん

え?ベトナムだと普通だよ

そうなのか…。
あとで調べたところによると、この耳穴剃りはかつて日本でも出来たのだそう。

ただ、現在は地域の条例によって禁止されていたりするらしく、基本的にサービスを受けることは難しいようです。ベトナムに来られた際はぜひ一度お試しください、耳穴剃りたった100円、もちろん自己責任で…。


ちなみに一番長く使っている道具はこちら、フランス製のハサミで20年物だとか。

ネルソン

20年も使っていればだいぶ愛着もあるんじゃないですか?


フンさん

いや、丈夫だから


ネルソン

あそう


歯ブラシは電動バリカンの刃を掃除するため。


えらくファンシーだけど年季が入りまくっているこのカバンは、お孫さんが使っていたもの。家からこれにすべての道具を詰め込んで来ているらしい。

ネルソン

かわいいお孫さんが使っていたんだったら愛着もあるんじゃないですか?


フンさん

いや、便利だから


ネルソン

あそう

青空床屋、雨が降ったら雨宿りの場所になる

ブワッ


お?この風の勢いは…

バタッ、バタバタバタッ…ババババ…


スコールだ!


雨に濡れないよう、パラソルの中央に身を寄せる。


って、いつの間にやら、あんた誰!?

気づいたら通りすがりの人がパラソルに入って雨宿りをしていた。

ネルソン

あの…こういうことってあるんですか…


フンさん

あるよ! ま、いいんじゃない?

雨が降ったときは知らない人がお店の屋根(パラソル)で雨宿りしていても問題ない。
ベトナムらしい、距離感の近い助け合いだな。

実は絶滅危惧種?時代から消えゆく青空床屋

最後に、どうしても聞きたい質問をぶつけてみた。

それは青空床屋が今どれくらい残っているのかということ。
私がベトナムに来た5年半前はもっと見かけたが、最近はとんと見なくなったのだ。

ネルソン

フンさん以外に、青空床屋っているんですか?


フンさん

うーん、街の中心ではもう見なくなったね


ネルソン

おぉ…やっぱり


フンさん

私は先輩に技術を教わったんだけど、はじめた当時の35年前は本当に至るところにいたんだよ。ひとつの通りに7,8人はいたんじゃないかな。だけど、今じゃ誰もいないことが当たり前さ

冒頭で書いた通り、ベトナムは路上文化。しかし、最近では国や市の急速な発展の裏で、路上での商売に対する規制がかなり厳しくなっている。フンさんが30年間営業していた場所を離れた理由もまた、大手の銀行の出店による道路の規制があったとのこと。発展は一般的に喜ばしいことなんだろうけど、一方でその勢いと反比例するように、ベトナムらしい景色が急速に失われていっているところには物悲しさも覚えてしまう。

ネルソン

それにしても、青空床屋のみなさんはどこに行ったんでしょう?


フンさん

多くは店舗を持ったよね。あとは転職したり…歳も歳だし亡くなった人もいる。何より、今は美容院にしろ床屋にしろ店舗が増えたから客足が減ったこともあるよ


ネルソン

フンさん自身は店舗を持とうと思わなかったの?


フンさん

30年前に考えたけどねー…。タイミングを失って、今となってはもう歳だしはじめてもしょうがない


ネルソン

なるほど…。でも、確かに美容院が増えたという話で言えば、私が来た5年半前ってベトナム人女性は黒髪ロングが定番だったんですが、今だとショートカットや茶髪などのカラーもすごく増えている印象があります

かつては青空床屋のスタイルが定番だったが、国が豊かになっていく過程で髪へのオシャレにお金を掛けるようになり、店舗型が充実していっているということもあるんだろう。

フンさん

それに、ここに午前は来ない(13時に来る)理由も、その時間帯は警察がいるからなんだよ


ネルソン

規制されるから、ってこと?


フンさん

うん

「警察がダメと言うなら、午後だろうがやったらダメだろ」と思われるかもしれないが、ベトナムにはベトナムの事情があるので日本と同じ尺度では測れない。法的にはダメなのかもしれないけれど、その法がどれだけ信用されているかという問題にもなってくる。ワイロの習慣が当たり前だったり、法律そのものの解釈が役人によって変わったり、とにかくグレーな要素が多い。ただひとつ言えるとすれば、確かに時代は青空床屋に逆風を吹かせているということだ。

フンさんの立場を少し心配しつつも、最後にやりがいを聞いてみた。

フンさん

やりがい?そうだね…収入のいい仕事とは言えないしね…


ネルソン

あっ、意外にネガティブな


フンさん

さっき話した通り、障害もあってこれしかやれなかった訳だから、ときどきつまらないと思うことはあるよ。でも、私でも稼げる仕事だし、そのお陰で三人の子どもも大学へ通わせることが出来たし、孫もいる


ネルソン

そりゃすごい!


フンさん

35年も切りつづけていると、中には四世代に渡って付き合いのあるお客さんもいる。髪は、毎月切る人もいるからね、先月来てくれたお客さんがまた今月も来てくれた、って瞬間は楽しいと感じているよ

やりがいで美談が聞けるかと思いきや、「つまらない」と思わぬ言葉が飛び出したことで、かえってフンさんの本心に触れられた気がした。考えてみれば、どんな仕事でもそのすべてが好きだと言える人はなかなかいない。そんな中で、常連さんがひょっこりと顔を出してくれることは嬉しいとも思う。

1時間足らずの取材だったけど、ふしぎとフンさんの35年間が頭に思い浮かぶようでした。


最後の青空床屋になるまで…元気でつづけていってほしいと思います!

で、結局、カツラのビフォア&アフターは?

カツラを被ったままお願いしたカットでしたが…


ビフォア…


アフター!

おぉ! 大胆にカットされた訳じゃないけど…めちゃ自然になっとる! ヤバイな、新たな扉を開いてしまったかもしれない。カツラか…いや!いやいやいや…。

なお、カットと顔剃り(耳毛と鼻毛も)で合計5万ドン(およそ250円)。ベトナムでは遠足のおやつ代でボサボサ頭もキレイサッパリ!観光にお越しの際にはぜひチャレンジしてみてください!